ピアノサークルに所属して「楽しい」と感じる瞬間はどんな時だろう。
初めてのピアノサークル、初めての練習会に参加した時のことをよく覚えている。
周りはみんな上級者で決まってクラシック曲を弾いている。演奏中は静かに耳を傾け、お堅い印象だった。
いざ自分の番が来た時は指が震えた。人前で弾くのは何年ぶりだろう。ピアノも再開したてで弾けるレパートリーなんてなかった。手持ちの楽譜も中級のディズニー、しかも最後まで弾けないもの。弾き始めて、会場が独特の空気に包まれたのを覚えている。私の思い違いかもしれないけれど、「ああ、この人はこの程度のレベルか」と思われたようで、私の演奏に耳を傾ける雰囲気を持ちながらも聴衆はみんな俯き携帯をいじっている。とてもじゃないけどこんな完成度の低い曲を何度も演奏する気になれず、持ち時間を使い切ることはできなかった。
「もう……いいです」
私が苦笑いしながらそう言うと、他のメンバーは私の時間を使って再び弾き始める。
持ち時間は平等に与えられるが自らギブアップした時間は他の人が使うようだ。しかし料金は安くなる訳ではなく平等に割り勘だ。
(ピアノサークルはやっぱりピアノがある程度弾ける人じゃなきゃ楽しめないのかな……)
そんなことを心の中で思い、初めての練習会はお世辞にも楽しいものとは言えなかった。
その後月日は流れ、いろんなことがあり、そのサークルの初心者の会を「ピアノサークル・うさぎの会」として独立させていただいた。
ピアノは弾ける方が楽しい。
でも習い始めた人や再開したばかりの人、人前で弾くのに慣れていない人などいろんな方がいる。
弾ける人ばかりではない。
私はそういう人が参加しても楽しいと思えるような会にしたい。そんな思いでうさぎの会は作られたのだ。
ピアノを楽しいと思える瞬間は人それぞれ。
弾けなかった曲が弾けるようになる時や、ピアノを人前で披露するのが楽しいと思う人もいる、ピアノ仲間と出会うことに楽しみを覚える人もいるだろう。
ピアノを初級者・中級者・上級者で括り付けるのは良くないかもしれない。けれど上級者ばかりの中で初級者がのびのびと演奏をし、心から楽しめる練習会ができるかは分からないだろう。
弾ける人には弾けない人の気持ちが今ひとつ理解できないだろうと私は思っている。
苦い経験をしてきた私だから、上手く弾けない人の気持ちは弾ける人よりわかるつもりだ。わかるというより共感に近い感情である。
私はピアノ歴が浅い人でも安心して楽しめる場を作りたいと思ったのだ。
うさぎの会はそんな私の思いが色濃く反応されているサークルであり、思いやりのあるサークルでありたいと願っている。
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